ROEとROA——似ているようで見ている世界が違う
「ROEが高い企業は良い企業」——投資本やネット記事で繰り返し目にするフレーズですよね。 確かにROEは企業の収益性を測る重要な指標ですが、ROEだけを見ていると大事なことを見落とします。 そこで登場するのがROAです。
この2つの指標は、名前も似ているし計算式も似ている。 でも、見ている世界がまるで違います。 10年以上投資をしてきて思うのは、ROEとROAをセットで見られるようになると、企業の実力をかなり正確に見抜けるようになるということです。
それぞれの計算式
ROE(Return on Equity:自己資本利益率)
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100(%)
「株主が出したお金に対して、どれだけ利益を生んだか」を示します。 株主目線の指標ですね。
ROA(Return on Assets:総資産利益率)
ROA = 当期純利益 ÷ 総資産 × 100(%)
「会社が持つ全資産を使って、どれだけ利益を生んだか」を示します。 借金も含めたすべての資源に対する効率性の指標です。
たとえば、純利益10億円の企業が2つあるとしましょう。
- A社:自己資本100億円、総資産200億円 → ROE 10%、ROA 5%
- B社:自己資本50億円、総資産200億円 → ROE 20%、ROA 5%
B社のROEはA社の2倍ですが、ROAは同じ。 この差は何かというと、借入金(レバレッジ)の違いです。 B社は自己資本の比率が低い、つまり借金を多く使って経営しているんです。
レバレッジの罠——ROEが高ければ良いわけではない
ROEは借入を増やせば数字を上げられます。 自己資本を減らして負債を増やせば、分母が小さくなるので当然ROEは上がる。 でも、それは「借金で見かけの効率を良くしている」だけかもしれません。
私が投資初心者の頃、ROE 25%の企業を見つけて「すごい!」と思い、よく調べずに投資したことがあります。 後から気づいたのですが、その企業は自己資本比率がわずか15%で、ほとんどが借入金で運営されていました。 景気が悪化した途端に業績が急落し、株価も大きく下がった苦い思い出があります。
だからこそ、ROEとROAをセットで見ることが大事なんです。 ROEが高くてROAも高い企業は、本業の稼ぐ力が強い。 ROEが高いのにROAが低い企業は、レバレッジに頼っている可能性がある。
デュポン分解——ROEを3つの要素に分解する
ROEをより深く理解するために使われるのがデュポン分解です。 ROEを3つの要素に分解することで、「何がROEを押し上げているのか」が見えてきます。
ROE = 売上高純利益率 × 総資産回転率 × 財務レバレッジ
- 売上高純利益率(純利益 ÷ 売上高):どれだけ利益を残せるか。「稼ぐ力」
- 総資産回転率(売上高 ÷ 総資産):資産をどれだけ効率よく使っているか。「回す力」
- 財務レバレッジ(総資産 ÷ 自己資本):借入の度合い。「てこの力」
同じROE 15%でも、利益率が高いのか、資産を効率よく回しているのか、レバレッジで嵩上げしているのかで、企業の質はまったく異なります。
具体例で見てみましょう
- 高利益率型(例:医薬品メーカー):利益率15% × 回転率0.5回 × レバレッジ2倍 = ROE 15%
- 高回転型(例:小売チェーン):利益率3% × 回転率2.5回 × レバレッジ2倍 = ROE 15%
- 高レバレッジ型(例:不動産):利益率5% × 回転率0.6回 × レバレッジ5倍 = ROE 15%
ROEの数字は同じ15%でも、中身はまったく違いますよね。 長期投資では「利益率が高い × 回転も悪くない」企業が、安定してリターンを出しやすい印象です。

理想的なROE・ROAの水準は?
ROEの目安
- 8%以上:一般的に合格ライン。伊藤レポートで推奨された水準
- 10〜15%:優良企業レベル
- 15%以上:非常に高い。ただしレバレッジ要確認
- 5%未満:資本効率に課題あり
ROAの目安
- 5%以上:優良レベル
- 3〜5%:一般的な水準
- 7%以上:非常に高い資産効率
- 2%未満:資産効率に改善余地あり
ただし、業種によって大きく異なります。 金融業はレバレッジが高いのが普通なのでROEが高くてROAが低いのは当たり前ですし、 製造業は設備投資が多いので資産回転率が低めになりがちです。 ランキングページで同業種の企業と比較するのがおすすめです。
ROE・ROAの推移を見る重要性
単年度のROEやROAだけ見ても、その企業の実力はわかりません。 大切なのは3〜5年の推移です。
- ROEが安定的に10%以上を維持 → 安定した収益力がある
- ROEが年々低下している → 競争力の低下や市場環境の悪化
- ROEが急激に上昇 → 一時的な要因(特別利益や自社株買い)の可能性
- ROAが改善しながらROEも上昇 → 本業の強化による健全な成長
特に私が注目するのは「ROAが横ばいなのにROEだけ上がっている」パターン。 これは負債の増加でレバレッジが効いているだけの可能性が高く、持続性に疑問が残ります。
実践的な使い方——投資判断に活かすには
- まずROAを確認:本業で稼ぐ力があるかをチェック。ROA 5%以上なら基盤は悪くない
- 次にROEを確認:株主資本に対するリターンを確認。レバレッジの影響を意識
- デュポン分解:ROEの中身を確認し、利益率・回転率・レバレッジのバランスを見る
- 推移を確認:過去5年の推移で、トレンドと安定性を判断
- 同業比較:同じ業種の企業と比べて、相対的な位置づけを確認
カブスクのスコアリングでも、ROEは収益性を測る重要な要素として組み込まれています。 ただ、スコアだけに頼るのではなく、こうした指標の中身を理解した上で活用していただけると、より精度の高い投資判断ができるはずです。
まとめ
ROEは「株主目線の効率性」、ROAは「企業全体の資産効率」。 この2つをセットで見ることで、見かけのROEの高さに惑わされなくなります。
デュポン分解まで踏み込めば、ROEが「良い高さ」なのか「借金頼みの高さ」なのかが見えてくる。 最初はちょっと面倒に感じるかもしれませんが、慣れると数秒で判断できるようになります。 ぜひ銘柄一覧から気になる企業を分析してみてください。



